海保では駄目な理由


先日、八重山毎日新聞さんの社説「海保では駄目なのか」が掲載されていました。これは与那国島への沿岸監視隊設置に反対する旨の社説です。

これを読んで私なりに思ったことを書いてみます。

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※自衛隊が軍隊か?という話は措きます。自衛隊は国際法上、交戦者団体として認められています。

1 武器をもっているから大丈夫でしょ!?

海上保安庁は海の警察組織。日夜を問わず日本の海域を警備する組織です。警備機関として武装もしていますし、武器使用権限(発砲できる)も有しています。この点だけを見れば、「別に自衛隊でなくても…」という八重山毎日新聞さんの見解は正しく見えます。

ですが…

海上保安庁はあくまでも警察機関であり、軍隊には勝てないと(ほぼ)断言できます。それは軍隊と警察が以下の点で顕著な実力差があるからです。それは…

組織力

火力(攻撃力)

です。

※海上保安庁法25条(平成20年5月2日最終改正)
 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。


2 目的のの違い

組織力と火力の違いの前提となることがあります。それは軍隊と警察の目的の違いです。警察は…

・平時の秩序を前提に行動する組織。
・平時の秩序の維持に当たる。(海上保安庁なら海の治安維持)

警察機関は行政機関の一つですから、既存の秩序を維持することを目的に活動しているということです。一方の軍隊は…

・戦時を想定して構築された組織
・戦時とは平時の秩序が他国の軍事力によって強制的に崩壊させられた事態。

です。軍隊は相手方により壊された自国の秩序を再構築するために、相手国軍を排除することを目的にしています。

軍隊と警察は前提自体が異なるのです。この前提の違いは当然に組織の性質に大きな影響を与えます。


3 組織力の違い

警察は集団として権限を行使しません。これは平時の秩序において集団としての警察に対抗できる組織が存在しないこと(軍隊は国内使用しないのが原則)、権限を個人単位に分散させることで権限の集中を避けたい、これで平時の秩序を保持したいのだと思います。

他方、軍隊は部隊単位で行動します。これは軍隊の活動領域が平時の秩序が崩壊した地域であることに起因します。混乱した地域で活動するのですから、確立された組織と指揮命令系統が不可欠なのです。個々人でバラバラに活動するなら、自国の秩序の再構築など夢物語です。


4 火力の違い

軍隊と警察は「武装している」という点では同じですが、火力(攻撃力)には大きな差があります。軍隊は戦車や戦闘機、軍艦、重火器などを強大な武装をしますが、警察は小火器どまり。この違い、なぜかというと、前記の前提の違いです。

【警察】
・治安維持が目的。
・目的のために武器使用は法令等により厳しく制限される。
・治安維持を損なわない程度で、且つ、国民生活を侵害しない程度の武装。
・犯罪者を逮捕できる程度の武装でよい。(生かして逮捕して裁くから)
・武器使用が出来ても比例原則(ナイフなら警棒)、最小限原則(過剰なことは駄目)、急迫原則(差し迫っている)などで更に制限される。

【軍隊】
・相手軍により破壊された自国の秩序の再構築が目的。
・目的のために相手軍を攻撃して撃滅・排除できる武装が必要。
・相手軍の兵員や兵器を殺傷破壊できる武装が必要(血を見ないと退きません)
・自国の秩序の再構築のために、政治により制限された事以外のことは何をしてもいい。
(攻撃の程度に上限はないということです。)

目的の違いが火力の差にも大きく出ていますね。

若干、話がそれますが、ルワンダへのPKO派遣の時に国会で武器何丁議論がありましたが、この議論は軍隊と警察の火力の違いを混同した例です。
 PKO(国連平和維持活動)は、ついさっきまでは紛争状態にあった地域に行くことですから、治安は流動的で、まだ平時の秩序は定まっていないのです。そんな地域に自分を守れない人たちが行っても邪魔なだけです。(震災ボランティアも同じです。自活できない人は迷惑なだけでしょう。)


5 南西諸島では?

仮に最も注目されている尖閣諸島に軍隊が来た場合(絶対あるとも絶対ないとも言えません。相手次第です)、海上保安官の殉職は避けられないでしょう。

戦闘集団 VS 個々の海上保安官
効果的な殺傷・破壊を追求した武装 VS 犯人逮捕を追求した武装

の対決になるわけですから。こういう事態にならないためにも軍隊(自衛隊)である必要があると思います。

海上保安庁に出来ること・出来ないこと、自衛隊に出来ること・出来ないことを知った上での対策を採ってもらいたいものです。

【今日のポイント】

◎軍隊と警察は目的が違う。
◎軍隊と警察が戦えば警察は敗れる。
◎軍隊と警察の混同は避けないといけない。(議論もズレますね)

【参考書籍】

軍隊と警察の違いを説明する唯一の本かと思います。(私の読書の範囲内ですが)



私たちの4代くらい前の日本人の軍隊造りの物語です。



江戸時代は儒学がメインのように見られますが、実は兵学がメインでした。(儒学は道楽の學問扱いです。実用性に乏しいと見られたからです。)明治維新後の軍隊の急速編成の思想上の一面が江戸時代からあったということですね。




【註】

・「海保」では駄目なのか(八重山毎日新聞)
http://www.y-mainichi.co.jp/news/19083/

・軍隊と警察の違い(当ブログより)
http://koukuujieikan.seesaa.net/tag/%8CR%91%E0%82%C6%8Cx%8E@%82%CC%88%E1%82%A2

・海上保安庁法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO028.html

・前原氏「武器使用緩和を」 PKO見直し 他国軍も防衛(朝日ドットコム)
http://www.asahi.com/politics/update/0908/TKY201109080184.html

・自衛隊の武器使用緩和の必要性に言及 訪米の講演で前原氏(msn産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110908/plc11090812040011-n1.htm

この記事へのコメント

  • 数多久遠

    お初に、お邪魔します。
    航空自衛官だった人です。

    海保にも武器使用権限があるとは言っても、そこには絶大な差があります。

    海保の武器使用は、基本的に警察官職務執行法7条が準用されるケースです。

    それ以外のケースでは、停船命令に従わない場合にも武器使用できますが、あくまで停船させるためですし、それ以上に、軍艦や政府の使用する船舶(漁業監視船など)には射撃できないことになってます。

    漁業監視船には手出しできないというこの一事を持ってしても、海保だけでは不十分というのは明白な気がします。
    2011年09月08日 22:43
  • うさぎの耳

    数多久遠さま おはようございます!!

    海保の武器使用権限の御説明ありがとうございます。公船の問題も大きなものですね。

    「海保だけ」(自衛隊排除)論が大きくならないことを願いますが…

    数多久遠さんのコメントによって、このエントリーがよりよい方向にいきました。

    ありがとうございます∠(*^-^) 敬礼♪
    2011年09月09日 09:53

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