この事業は自衛隊の人事政策全般に関わるもので、「若くない自衛隊を若くする」もの。
具体的には何をするのでしょう?

「自衛官の若年齢化による人件費の効率化」は、陸海空自衛隊の幹部自衛官の年齢構成を若くすることで人件費を抑制することを内容としています。
こういう名前になっていますが、元々は自衛隊全体の若年齢化を目指す政策の一つです。結果として人件費抑制になるということでこの名前にしたのかもしれません。
自衛隊の若年齢化?いったいなんのこと
自衛隊は「精強性」を保つために若い人材を求めています。自衛隊は24時間態勢で国防の任務についている組織、戦闘訓練などを日夜行うため、身体的にも精神的にも強い人が欲しいのです。
現在の自衛隊は年齢構成ではいびつな状態になっていて、欲しいはずの10代から20代の隊員が少なく、40歳代の隊員が多いのです。つまり「若くない」ということなのです。
陸上自衛隊幹部の平均年齢を例にとると
陸上自衛隊 平均41歳
米陸軍 平均34歳
英陸軍 平均36歳
といった具合になります。
そこで自衛隊と防衛省は考えました。
「自衛官の年齢構成を若返らせるために、40歳以上の幹部の数を減らして人件費を浮かせよう!そしてそのお金で若くて体力・気力のある人を採用すればいいんだ!」と。
具体的には
・A幹部とB幹部の採用増加
A幹部とは防衛大卒で自衛隊に任官した人と一般大学卒業者で幹部候補生試験に合格した人。B幹部とは自衛隊内の選抜試験を合格した下士官クラスの自衛官が幹部になるもの。
・C幹部の採用抑制
准尉や曹長クラスを経験した40歳代の自衛官が幹部になる。
という施策をとります。つまり「卒業したての人ならまだ人件費は安くて済む」、「人件費がかかる中年自衛官をあまり幹部にしませんよ」ということです。
幹部候補生試験
上記の施策によって、一応人件費が抑えられます。しかし別の課題も生じてくるのです。それはA・B幹部の増加による定員の圧迫です。
自衛隊は予算と法律によって各階級の定員を定めています(例えば将は5人、1曹は100人など)。定員が決まっている以上、昇任(昇進のこと。自衛隊では昇任という)できる人も限られるのです。そうなるとだぶついた人たちがある階級にずっと留まってしまうということになり、人事の硬直化を招きます。
そこで、自衛隊や防衛省が考えたのは中途退職です。
防衛省などの試算によると、人事の硬直化を招かない程度に人材を昇任させていくには年間400人程度の中途退職が必要となるそうです。40歳代というと人生でもお金の掛かる時期、そこで退職させるにはよほど魅力あるものを提供しないと難しいことです。
中途退職させる手段として
・在職期間の制限
・早期退職優遇制度
が検討されています。
在職期間の制限は、入隊してから、又は、ある階級になってから一定の期限を迎えると自動的に退職させる制度で、米軍や英軍が採用しています。米軍では、大佐が30年、中佐26年、少佐20年という在職期限を設定。英軍では少尉任官後16年以内に佐官試験に合格しないと退職になります。そのため米英両国では軍人に対する年金を退職時から支給することにしています。40歳代から亡くなるまで年金を貰うという制度です。
一方の早期退職優遇制度は、民間企業や地方自治体も採用している退職金の上乗せのことです。これらにも課題はありまして・・・
△米英両国のような軍人への早期年金支給制度を構築できるのか
△退職者増加による退職金の増加する
△退職者と同数程度の新規採用ができるのか
△再就職支援のあり方は現状のままでいいのか(壮年期の退職と60歳代近くの退職では違うということ)
△本当に必要な人材も辞めてしまう可能性がある(これは現状でも同じです)
△幹部自衛官の身分保障を弱くすることになるが、曹士自衛官(下士官・兵クラス)の身分保障は従来通りとするのか(防衛省の計画では幹部自衛官だけを対象にした制度です)
などが指摘されています。
中でも「本当に必要な人材も辞めてしまう可能性がある」は痛い点です。現状でも本当に必要な隊員でも予算の関係上退職させないといけないことがあります。そこに退職手当の割り増しなどが加わって退職しやすくなると、優秀な人ほど早期に辞めていきます。結果「私、安定してるから制服着てます!」というだけの人が増えて士気が落ちることになります。
なお、自衛隊や防衛省は、中途退職制度などを平成23年度から試験運用したいとしています。そういえば「40歳代自衛官のライフプランのご相談にのります」というFPの広告も見られるようになりました。
以上が「自衛官の若年齢化による人件費の効率化」事業でした。
「自衛官の若年齢化による人件費の効率化」は、任期制隊員(契約社員)の採用数減少、非任期制隊員(正社員採用)の採用拡大・「非自衛官化」などを含む自衛隊の人事政策全般を指す事業です。
この事業が行われる理由の一つに防衛予算の減額があります。年々減っていく防衛予算、その中で最新兵器も買わないといけない(当然高い)、既存兵器の改修や維持費も掛かる、給料・被服・油なども払わないといけないわけです。 日本の周辺国は軍事予算を増額させており、中国は日本の予算約4兆円後半を上回る5兆 9千億円(中国政府公式発表)となっています。(中国は軍事予算を分散計上しているので正確な額が不明。2倍以上14兆円規模という試算も)
今回の事業仕分けでは幹部自衛官の年齢構成などが議題に上りましたが、本来は国会で議論すべきものです。なぜなら、自衛隊のあり方を左右する事柄だからです。
事業仕分けをきっかけに防衛予算の規模が適正かどうかも含めて国会で議論されることを望みます。

自衛官になろう
追伸
最新兵器を買うというと「世界一でだめなんですか?」「2番目でもいいじゃないか」と言われそうです。兵器の性能は常に仮想敵国を上回っておく必要があります。そうでないと相手から「弱い」とみられて戦争発生を抑える力(抑止力)が低下します。相手より強くないと意味が無いわけです。
註
事業仕分け対象となった自衛隊の人事政策 その中味
http://koukuujieikan.seesaa.net/article/133054099.html?1259205279
中国、2008年国防費を発表・前年比17.6%増
http://www.afpbb.com/article/politics/2359626/2701550
中国の軍事費が世界2位に SIPRI報告
2009.6.8 18:03
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090608/chn0906081811002-n1.htm
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